散るろぐ

こころふるえる感情メディア

アフィラージュ405号室

こんちは。ライターのチルドです。

引っ越してからもう半年が経ったよ。

場所については詳しく話せないんだ。地方都市だけど、ある大手ASP業者が提供する個室型マンションとだけ言っておくね。


http://www.flickr.com/photos/34325628@N05/14846411831
photo by ChrisGoldNY

転職

ここに来るまえは大規模農園でトマトの栽培をしていたんだ。給料は手取りで20万とちょっと。

今度の仕事は月々の手取りが10万円だよ。ただし家賃はゼロ。しかも食事が無料で食べれる。これを高いと感じるか、安いと感じるかは、人それぞれだろうね。

仕事内容はいたってシンプル。毎朝メールボックスへ「種」と呼ばれるキーワードが届くんだ。種の種類はさまざま。だけど可燃性の高い種はフィルタリングされてる。

種の数は、多いときで15粒ほど。少なければ5〜6粒とまちまちだけど、平均すれば1日8粒ほどかな。

僕たちアフィラージュの住人は、その種を埋め込んで記事を作る。種はASPに雇われた業者がTwitterから採取してくる。彼らはプラントハンターと呼ばれていて、Twitterをはじめとする世界各国のコミュニティから希少な種やめずらしい苗を探してくるんだ。

今日は最初にロングテールのタグがついた種をドラッグしてテンプレートへ置いた。キーボードをリズミカルに叩きながらテンプレートに種を植えていく。種を植え終わると誤字脱字をチェックして公開のボタンを押す。

最初は戸惑ったけど、慣れてしまえばカンタンだよ。ひと粒の報酬はまちまちだけど、たまに3倍くらい多めに振り込まれている。初めはその変化に一喜一憂していたけど、慣れてくるとどうでもよくなったよ。平均したら大差がないからね。

今日は調子がいいよ。

時計の針が12時を指すころには6個の種を植えおわっていた。あと2個だね…。この仕事の良いところは自分のペースでできるところ。もちろん天候に左右されることもない。

ちょっと疲れたから休憩しよっかな。

このマッサージ機は、すべての個室に備え付けられているらしい。いつもちょぴり罪悪感があるけどやめられないんだ。

銀色のサイバーグラスと「装置」を、からだのしかるべき場所に装着してソファーへ横になる。すると一気に画面が暗転して、まるでそこに自分が実在する気分になるんだ。

登場人物とシチュエーションはランダムに選択される。はじめの頃は設定をいじっていたけど、途中から面倒になってしまった。自分で選ばなくても好みにピッタリの人物が登場するんだよ。どういう仕組みになっているんだろう。

下腹部のリアルな刺激にからだが跳ねてしまう。僕はなぜパン屋の店員さんに興奮してしまうのかな。両手に柔らかな感触を感じながら店内でガクガクと腰をふる。

あたまの中が真っ白になりモヤモヤが晴れてスッキリ。いつも思い通りの展開になるから、異常に興奮してしまう。放っておくと次々に映像と刺激が繰り返されるから適当なところで止めないとね。じっさいに去年は高齢入居者のマッサージ中毒が問題になっていたし。


バスルームでシャワーを浴びて再びパソコンの前に座る。のこりの種をドラッグして文字をディスプレイに植えこんでいく。誰にも邪魔されることなく作業に没頭できるよ。ちょうど1時間後に最後の種を植えおえてエンターを叩いた。

SNSを巡って水をまき、畑の日照度をあげる。スプリンクラーと呼ばれる自動拡散装置もあるけど、手を動かすようにした方が効果が高いらしい。

30分ほど拡散して回ると、不意に眠気がやってきた。そのまま仰向けになり手をあげて伸びをする。

明日は休んで遊びに行こっかな。

トマトを育ててたころは、休日といえば一日中、家にこもってゲームをして、あとは寝ていたんだけどね。この仕事に変わってから、休日は必ず外へ出かけているよ。

要はバランスの問題かな。

僕は目を閉じて、とりとめもない考えに思いを巡らせた。それはやがて深い眠りに変わっていった。




おしまい