散るろぐ

僕のすべてを伝えたい。心ゆさぶる感情メディア

僕という名のクズ

僕は人間のクズなんだ。

みんな、僕にイラっとしてるよね。その感覚は間違いじゃない。僕には、いつだって人を苛立たせる素質があるんだよ。

今日はそんなお話し。


僕がまだ中学生だったころ、塾へ行くとき、いつも迎えに来てくれる、同級生の女の子がいた。

久美ちゃんという名前で、近所に住んでいた。小学校も中学校も、おなじだったから、顔も名前も知ってたけど、遊ぶような仲じゃなかった。

僕が入った塾には、もともと久美ちゃんがいて、帰り道が一緒になるから、よく話すようになったんだよ。真面目な子だった。

当時、僕の住んでいた家の辺りは、車も通らなければ、街灯も民家もない、町外れの寂しい場所にあった。

家に向かう小道は、夕方になると人気も無くなって、わずかな月明かりが頼りの、暗い道だった。

ある日、僕は、その暗さの有効利用を思いついた。サプライズだよ。迎えに来てくれる久美ちゃんをびっくりさせてあげようと思ったんだ。

昼のうちに、久美ちゃんが歩くルートを確認して、自分でも歩いてみた。それから、3日かけて、その道のりで、一番びっくりしそうなポイントを見つけた。

そこは、ゆるやかに道の曲がった、左手が高い塀で右手が雑木林という、まさか、こんなところで、というような、意外性に富んだ場所だった。


いよいよ決行の日がやってきた。それは奇しくもクリスマスの夜で、僕は「これは面白いサプライズになるよ」と確信した。

黒ずくめの上下に、目出し帽をポケットに忍ばせて、僕はワクワクしながらサプライズポイントに向かった。

そこは、ゆるやかなカーブの、もっとも暗い場所だった。なおかつ、一瞬、見通しが途切れていて、人間なら誰しも、本能的に不安を感じるような場所だった。

僕はそこにしゃがんで、息を殺して身を潜めた。万が一に備えて、7時半には家を出た。予定通りなら、久美ちゃんは25分後にここを通過する。

僕は、顔全体をかくす目出し帽を、もう一度深くかぶり直した。背中の雑木林から、冷たい風が吹いて、笹の葉がカサカサと鳴った。

僕は、いまにも爆発しそうな笑いを噛み殺していた。

暗くい影にしゃがんでいると、時間の感覚を喪失しそうになった。月明かりのないクリスマスの夜は、気温も下がって、吐く息が白かった。シンと冷えた地面の冷たさが、黒いズボンを通して伝わってきた。

しばらくして、僕は、もしかしたら来ないかも知れない、別のルート、別の手段で僕の家に向かっているかも、という疑念がよぎった。

そのとき、遠くから、小石がシャリシャリ鳴る、かすかな足音が聞こえてきた。僕の読みは見事に的中した。わざわざ確かめなくても、この時間、この道を通るのは、久美ちゃんでしかありえない。

僕は、高鳴る鼓動を感じながら、足音に全神経を集中した。そして、飛び出すタイミングと奇声のイメージを反復した。


シャリ、シャリ、シャリ


足音は、小走りに近づいてきた。早くここを通りすぎたい。僕には、久美ちゃんの感じているであろう不安が、手に取るようにわかった。

そして、足音があと3歩、というところに迫った瞬間、僕は全身をバネのように弾けさせて、手足をめちゃくちゃに振り回しながら、奇声をあげて道に飛び出した。

ポジション、飛び出し、タイミング。

そのすべてがひとつになって、完璧なサプライズだった。

しかし、久美ちゃんは、驚くどころか、叫び声ひとつあげなかった。

僕は、思ったような反応を得られなくてガッカリした。これほど入念に計画したのに、見破られていたと思ったんだよ。

僕はガッカリしたのと、ちょっと恥ずかしくもあって、無理に笑ってみせようとした。

すると、久美ちゃんは、突然、糸が切れた人形のように、倒れてしまった。僕は今まで、人間がそんなふうに倒れるのを見たことがなかった。例えるなら、ボクシングのKOシーンみたいに、クシャっと潰れるような倒れ方だった。

僕は、咄嗟に、ごめん、ごめん、と言いながら、目出し帽を脱いで謝った。想像していた驚き方とぜんぜん違ったから、あせってしまった。


久美ちゃんは、地面にしゃがみ込んで、しばらく呆然としていたけど、すぐに、乱れた髪を両手でなでつけて、メガネをかけ直した。そして、力なく立ち上がると深いため息をついた。

久美ちゃんの服には、白い砂ぼこりが付き、スカートから伸びた白いヒザには、小石が何粒かくっついていた。地面に小さな黒いシミがあった。

そして、久美ちゃんは、バッグを拾い、散乱したノートや筆箱を、震える手で押し込むと、僕には一瞥もくれずに、来た道を去ってしまった。

僕は、塾へ行くのも気まずくて、その日はサボって家に帰り、部屋で布団に丸くなっていた。

数日後、姉から「アンタ、くーちゃん(久美ちゃん)になんかした?」と詰め寄られたけど、僕は知らないと答えた。

そもそも久美ちゃんは、僕が高校に行けそうもないのを心配して、塾に誘ってくれたのだ。そして、すぐサボってしまう僕を見かねて、毎日、遠回りして迎えに来てくれていたのだ。


それ以来、僕は、誰とも親しくならない、ならない方がいいと思った。僕は、僕の思いつく愉快さが、他人のそれとは、どこか違うと思った。そしてそれは、人に不快感を与えてしまうと悟った。




そんな僕が流れ着いた場所がインターネットであり、ブログだった。

ここなら、適当な距離で寂しさを紛らわせるし、文章なら、書いたあとに見直せば、これはマズイかも、誰か怒るかも知れないってことを考えられた。それに、少々間違ったり、ウソをついても、そんなに責られない。

ときどき、見直さずに出してしまったり、気分で投稿してしまうこともあるけど、そんなときはやっぱり袋叩きに合う。

僕は、フィクションの世界に生きてるのかも知れない。

ブログは楽しい。ここには人の温もりがある。

同じフィクションでも、小説を書くのは、孤独すぎる。仕事をしているうちは、とてもじゃないけど、あんな孤独に耐えらない。