散るろぐ

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雨の日のお誕生日会

さっき、お家に帰りついたけど、横なぐりの大雨で下着までぐしょ濡れになった。傘なんかぜんぜん役に立たなくて背中までびっしょり。

オマケに大きな水たまりにはまって、お気に入りの革靴が水没。急いでティッシュを詰めて乾かしてるけど、ちゃんと乾くかな。

いつもなら、こんな目に遭ったら、ひどく落ちこむのだけど、きょうはちょっとウキウキしている。

今日、彼女の誕生日なんだよ。


今年で68歳の彼女とは、かれこれ20年の付き合い。事情があって結婚はできなかったけど、いつも一緒にいた。

僕はちょっと精神的に不安定なところがあって、若い頃は泣いてばかりいた。人付き合いの苦手な僕は、いつも勝手に悩んで、勝手に落ち込んで、ひとりで勝手に孤独になっていた。

そんなとき出会ったのが、今の彼女だった。小柄な彼女は、生まれつき足に障害があって、歩き始めたばかりの3歳児みたいに歩く。ひょこひょこと動き回って、いつも笑顔の彼女は、僕とは正反対に、誰からも好かれてる。そして、ひまわりのような明るさと、ライオンのような強さを秘めている。

せっかくの誕生日なのに、今日も僕のためにご馳走を作ってくれている。料理がすごく得意なんだよ。山陰の漁師町育ちだから、どんなお魚も手品みたいにおろしてしまう。

毎日、ご飯作ってたら飽きないの? たまには外食でもいいよ、って言うんだけど、いつも何かしらお家で料理している。

今日も、包丁のトントンいう音と、いろんな食材がパチパチ焼ける香ばしい匂いが漂っている。そのあいだ、僕は、かぼちゃのスープを飲みながら、スマホをポチポチしたり、本を読んだり、ゲームをしていたりする。

こんな僕が、彼女にできることと言えば、こんな風に誕生日を祝ったり、たまに一緒に出かけたり、浮気をしないことくらいかな。

焼きたてのお肉を食べながら、ビールを飲んでいると、出会ったころからの20年を思い出して、ちょっと胸が苦しくなる。

こんな穏やか時間が永遠に続くはずもなくて、お互いに歳を重ねて、いつか必ず終わりがやってくる。彼女もずいぶん年をとってしまった。

だけど、美味しそうにトマトを頬張って、ときどきこっちへ向ける優しい眼差しは、出会ったあの頃と同じだ。

僕はその笑顔を、いつまでもソフトフォーカスで見ていたい。