散るろぐ

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病院が好き

いつかの健康診断で、肝機能に異常が見つかり、再検査のために大きな病院へ来た。これまで、とりたてて大病をしたことがなく、病院とは無縁の生活を送ってきた僕は、そこで新たな発見をする。

病院って最高じゃないか。

なぜって、僕のために動いてくれる人がこんなにいる。僕の健康を気づかい、僕の病気を治すために、真剣に向き合ってくれる人が、こんなに沢山いるなんて、にわかに信じられなかった。

先生は親身になってくれて、看護師さんは果てしなく優しい。人から、こんな愛情を示されたのは、いつ以来だろう。

大げさかもしれないけれど、本当なんだ。これまでの人生で、本当に僕は、誰からも軽んじられてきた。一段下に見られるというか、生来、人に舐められやすい性質で、どこへ行っても、軽く、ときには雑にあしらわれた。

そんな不安から生じる挙動不審や、それに由来するぎこちない笑顔。自信を喪失した所作など「コイツは後まわしにしても問題なかろう」というような、人格を軽視する悪行ざんまい。

特筆すべきは子どもたちで、連中はときとして驚くほど残酷になれる。僕が周りの大人から軽んじられているのを察すると、途端に調子に乗りはじめる。

子供は、従わずとも怒られないとわかると、どこまでも野放図な暴君になれる。それは女の子も例外ではなく、まるで僕を下僕のように見下し、あれこれと指図しはじめる始末だ。

僕は正直、子供が怖い。いや、子供たちが、大人の様子を観察して、僕への態度を選ぶ仕草が怖いのだ。

ところが、病院には、そんな嫌な雰囲気が微塵もない。僕の苦手な子どもたちは、おしなべて弱っているし、たとえ元気でも、病院の放つ威厳に抑圧され、終始おとなしくしている。ざまをみろ。

総合病院は、すべてにおいて、上向きのベクトルが働いている。生命を救い、病と戦う、選ばれし精鋭によって、僕の存在が守られている。

僕は、病院が大好きになった。

病院は、なんだかわからない、科学薬品のイメージがあったけど、ぜんぜんそんな感じではなかった。高度に進化した空調は、乾いて清潔な風を送り、今まで嗅いだことのない、動物とも植物とも違う、不思議な匂いがした。

女性の看護師さんは、ほとんどお化粧をしてなくて、安心感がドライブしていた。あれだけの女性が集まると、化粧の匂いで大変なことになるのだけど、病院は無臭だった。

内科の先生はとても親切で丁寧だった。白衣の中に、わかりやすく説明してあげよう、というオーラが満ち満ちていて、恐縮してしまった。

僕のような者に、こんなに丁寧に接してくれるのは、世界中で彼だけではないだろうか。

しかし、すべての検査を終えて、自動精算機にバーコードを通すと、はたと手が止まってしまった。

ディプレイには、所持金を上まわる数字が表示されていて、僕は、何度も繰り返される、甲高い音声ガイダンスを聞きながら、途方に暮れていた。


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