散るろぐ

ここが僕のアナザースカイ

氷点下の街を2時間歩いた

バスがぜーんぶ止まっている。

その事実を受け入れるまで、数秒の間があった。やはり、こんな日に出かけるべきではなかったんだ。

途方に暮れる僕の格好は、セエタアにダウンジヤケツト。下はジンズに革靴という出で立ち。うすく積もった粉雪が靴の下でサクサク鳴る。空は灰色。風は刺すように冷たく、舞う雪が気まぐれに踊る。

寒い。寒すぎるよ、母さん。

これから12キロ、コンビニも街灯もない田舎道を、無事に歩き通せるかな。肩にかけたカバンを、しっかりかけ直して前を見すえた。

30分もすると、足の指が痺れてきた。もっと厚い靴下を履くべきだった。左足が痛い。バランスよく歩いているつもりでも、偏りがあるのかも。心持ち背筋をスッと伸ばした。

すると、不意に足がスベっる。あわてて体勢を立て直した。排水口の格子は二度と踏まないと誓う。ああ、コンビニで温かいコーヒーと肉まんを食べたい。服に積もった雪を落としたい。


海からの風が吹きつけて、束の間に視界が白くなる。すれ違う人もなく、ただひたすらに、うつむいて歩く。真正面の風を受けると、フードに雪が入ってくるのを斜に構えてやり過ごす。避けきれない強い風は、後ろ向きで止むのを待つ。

辺りはぼんやりと薄暗く、たまにすれ違う車はヘッドライトを点けている。ジャリジャリとタイヤチェーンを響かせて、時速10キロで通り過ぎていく。ひょっとしてスリップしたら、こっちに向かってくるかも知れない。なるべく車道から離れて歩く。

しかし、このダウンジャケット、すごいな。吹きつける冷気を完全にシャットアウトしてくれる。もしこれを着ていなかったら、とうの昔に凍えていただろう。

それが「水沢ダウン」なんだ。

過酷な環境でこそ、その真価を発揮する水沢ダウン。雪にも濡れず、風も通さない。吹き荒れる雪のなか、水沢ダウンで歩く。どこまでも歩く。

どれくらい歩いただろう。ただ無心になって、一歩、一歩、踏み出した足が、ようやく我が家まで届けてくれた。手足の先は完全に凍えている。水沢ダウンに包まれた体だけが、ほのかに熱を帯びている。

ふと、視線をあげると、その先にコンビニの光が見えた。とうとうここまで歩き切ったのだ。時計を見ると、ゆうに2時間が経っていた。氷点下の山越えの道を、コンビニすらない田舎道を、よく歩いてこれたと思う。

僕は、安堵の吐息をついて、コンビニのドアをくぐった。中はまるで南国のような温かさだった。すぐさま雪をはらってフードを脱いだ。こんな大雪の日に、よく開けていてくれたと感謝する。

そこで食べた、カニクリームコロッケは絶品だった。

帰宅

長い雪道を歩き、無事に帰宅できた。2時間をかけて歩いた雪道は、本当に過酷だった。しかし、これが自然と向き合うことなのだろう。

利便性が追求され尽くした現代では、自分から飛び込まない限り、ぬるま湯のような環境に堕落してしまう。家でパソコンやゲームばかりでいいのだろうか?

今日は、そんな人生の本質に触れた日であった。