散るろぐ

ここが僕のアナザースカイ

夜明けのすき家

「王将より、すき家がおいしい」

そう言ったのは、僕が居酒屋のバーテンさんに「誰でもいいから彼女がほしい」と頼んで、紹介してもらった女の子だった。

賑やかな夜の街にあった餃子の王将で、夜勤のアルバイトをしているという、その若い子は、農家のお嫁さんのように大柄で、お世辞にも可愛いとはいえないタヌキ顔をしていた。それが二十代の若さで、夜勤のアルバイトをしている理由なんだよと、本人が言っていた。

僕は、とり皮の酢漬けをつまんで、ビールをひと口すすってから「そんなことないと思うよ」と力なくうなずいた。

居酒屋は、のれんを出したばかりで、僕らの他にお客さんの姿はなくて、奥の座敷も空席みたいだった。こっちは仕事帰り、女の子の方は、9時から王将に出勤の予定だった。

王将のシフトは、夜の9時から翌朝の5時までで、
夜の街の真ん中にあるから、ずっとお客さんが途切れなくて、餃子やチャーハンをひたすら作るらしい。

そして長い夜が明けて、空が白みはじめたころ、女の子は、すき家で朝食をとる。朝食というのは、あくまでこっちの時間軸で、女の子にとっては夕飯、あるいは晩酌なのかもしれない。

僕は、飲食店の賄い飯を思いだして、女の子に「賄いは食べないの?」と聞いたら「たくさん作るから飽きてしまいます」と、女の子は真顔で言った。

餃子は油を使って焼くし、チャーハンも炒めるのに油を使う。お腹の空いたお客さんには、香ばしくて食欲をそそる匂いでも、8時間もずっとそこにいたら、食傷気味になってしまうのかも。

女の子は、そんな状態ですき家へ行くと、ちゃんとご飯の匂いがすると言う。

僕は、すき家にも餃子の王将にも、食べに行ったことがないから、その違いがわからなかったけれど、すき家には、王将にない「癒やし」があるんだって。

僕はうなずきながら「ビールもう少し飲む?」と勧めた。すると女の子は、今から仕事だから今日はこれだけにしておきますと断った。

「じゃあ、今度はすき家で会おうか」と僕が言うと、女の子は時計を見て、また申し訳なさそうに謝った。

そんなつもりで言ったんじゃないけど、女の子はどうも、このあと仕事だから、僕の夜のお楽しみ(お泊まり)に付き合えないことを、心から申し訳なく思っているようだった。

たしかに僕は、この居酒屋のバーテンさんに、誰でもいいからほしいと言った。そう言う意味で、この女の子は、完璧な条件を備えていた。

女の子は、深夜のバイトが終わって、すき家でホッとすると「すごい大きな波が来るんです」と言った。

大きな波というのは、つまりアノことで、僕も仕事で疲れ切ってしまったとき、不意に湧きおこる衝動に戸惑った経験があった。

女の子は、その衝動の解消方法を、誰よりも知っているように見えた。