散るろぐ

ここが僕のアナザースカイ

【AI採用】たったひとつのTweetが未来を変えた

「googleで働いてみたい」

僕がツイッターにそう呟いたのは、深夜の2時でした。Google の自由な職場を紹介した記事を読んだ直後でした。

しかし、42歳でノンスキルの僕が、世界のGoogle で働けるワケがありません。それなのに、そんなTweetをしてしまったのは、クリスマスの夜だったからです。他の日はともかく、今夜だけは夢をつぶやいてもいい、そんな甘い考えからでした。

すると次の日、メールボックスに一通のメールが届きました。送信元は、お馴染みのGoogleロゴとポジティブな文章。ありきたりの通知メールでした。しかし、その内容がちょっとヘンなのです。

平素より Google をご利用いただきありがとうございます。

後藤と申します。

本年度のAI採用はあなたに決定しました。書類を送付いたしましたので、契約内容をご確認のうえご返送ください。

ご不明な点がある場合は、お電話でお問い合わせください。 
 0120 631 xxx

月曜から金曜の午前 9 時〜午後 6 時です。(土日祝祭日を除く)   ご連絡を心よりお待ちしております。
後藤
Google

AI採用?

僕は意味がわからず、短いメールを何度も読み返しました。そして、僕が思ったのは、誰かのイタズラだということです。でも、イタズラにしては手が込みすぎています。そもそも、僕をからかったところで何のメリットもありません。誰にとっても時間の無駄でしかないのです。

しかし、現実にメールは届いています。その文面は、僕の「採用」が「決定」したと言っているのです。

あまりに謎すぎる内容に、僕は混乱していました。フィッシングメールにしては簡潔すぎますし、肝心のリンクアドレスもありません。しばし思案したのち、僕はメールに記されたフリーダイヤルへ電話をかけてみることにしました。


運命のコール

「お電話ありがとうございます。Google カスタマーサービスです」

「あ、メールの問い合わせなんですけど、後藤さんお願いします」

「後藤が承っております」

「あ、後藤さんですか。あのー、メールもらったんですけど、AI採用って書いてあるやつです」

「googleで働く意思はおありですか?」

「え?」

「Googleで働く意思はおありですか?」

「ええ、ええ、はい、それが事実なら…」

「もちろん事実です。1週間以内にチケットがお手元に届きますので、チルド様の準備が整いましたらマウンテンビューのGoogle本社へ起こしください 」

「それは、僕がGoogleで働けるってことでしょうか?」

「はい」

「なぜでしょう…?」

「なぜ、と申しますと?」

「いや、僕はプログラムを書けませんし、なんのスキルもない42歳なんです。そんな僕がどうしてGoogle 選ばれたんでしょうか…?」

「わかりません」

「わからない?じゃあ、いったいだれが何を基準に僕を採用したんですか?」

「決めたのはAIです」

それから彼女は、いろいろ説明してくれましたが、要するに、すべての判断をAIに委ねたら僕が選ばれたということでした。


AI採用の真実

後日わかったことですが、Google は数年前から採用にAIを導入していました。しかしそれは一部の、すでに採用の決定した者に限られていました。

そして翌年、採用の最終的な決断を、すべてAIに委ねたところ、例年なら20%ほどいた離職者が、その年はゼロでした。しかも、採用した全員が、すべての面で前年度を上回るパフォーマンスをみせたのです。

Google は、その事実を重くうけとめ、採用にはAIにしか判らないポイントがあると発表しました。少なくとも現時点では解明されていないと。

そして今回、人間の介入を一切排除した「AI採用」が実施されました。AI採用では、すべての国、すべてのオンラインユーザーを対象に、膨大なビックデータを解析し、googleで最高のパフォーマンスを出せる100名を探すよう、プログラムされていました。

AI採用の適性スコアは、500点満点でしたが、そのなかで、548点のぶっちぎりのハイスコアを叩き出したアジア人がいました。

それが僕なんです。


Google の社員になる

不可解なgoogleの電話から数日後、本当に僕の口座へ1000000$が振り込まれ、郵便ポストにカリフォルニア行きのファーストクラスの航空券が投函されていました。

僕は2本のウィスキーボトルと、ポケットにファーストクラスのチケットをねじ込んで、空港へ向かいました。ここまで来たら、どうにでもなれ、矢でも鉄砲でももってこい、という心境でした。

4日間のフライトで、シリコンバレーへ到着すると、空港まで後藤さんが迎えに来てくれました。僕らは抱き合って再開を喜ぶと、さっそくGoogle へ向かいました。

そこで僕は、正式にGoogle の社員になったのです。


Googleの仕事

初のAI採用ということで、僕の直属の上司は、AIが担当することになりました。

しかし、AIの指示は奇妙なものでした。チェンジドウォーター(花瓶の水をかえましょう)クリーニングミラー(鏡を拭きましょう)といった感じです。たまに芝刈りもしました。

しかし、それらはどんなに丁寧にしても60minで終わるような簡単なものです。僕はAIに「他にすることはない?」と尋ねるのですが、答えはいつもfinishでした。

仕事がなければ、僕はいつ帰ってもいいのですが、キャンパスの芝生でパソコンを開きニュースを読んだり、タミヤから取り寄せたミニ四駆を組み立てたりしました。

果たしてそれが、googleにとってどんな貢献になっているのか、僕にはわかりません。僕は、英語をまったく話せず、コードを一行も書けない、ただの42歳だからです。

しかし、AIは、毎年の査定で僕にトリプルAを与え続けました。


20年後

あれから20年が経ち、そのあいだに僕は、お嫁さんをもらって、子供も2人生まれました。妻のシェリーは、元チアリーダーで、仲間とスーパーボールの観戦へいったとき知り合いました。子供は2人とも女の子です。

もちろん、僕はGoogle に勤めています。業績は相変わらず好調で、来月は月面のサーバーセンターへ家族旅行をかねた出張を予定しています。

すべての歯車が、音を立ててカチっとはまったあの日から今日まで…。振り返れば奇跡のような日々でした。今でもときどき「僕は本当にGoogle の役に立っているのだろうか?」と、自分に問いかけることがあります。

しかし、その答えを知っているのは、AIだけなのです。


この物語は僕の夢を詰めこんだフィクションです。実在の人物団体とは一切関係がありません