散るろぐ

ここが僕のアナザースカイ

ダイソンリビングファンストーリー

8月2日。

僕の家に「ダイソンリビングファン」がやってきた。代引で受け取ったのは僕で、注文したのは彼女。いつのまにかジャパネットに電話したらしい。僕はさっそく、クロネコヤマトに彼女から預かっていた3万3千円を手渡して、ダイソンを家に招き入れた。


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羽根のない扇風機でおなじみの彼は、組立てもカンタンで、僕が説明書を見ながらやったら、わずか5分で完成した。その姿はとてもスタイリッシュで、まるで衛兵のように直立不動だった。


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ただ、和室に合うかというと、ちょっと微妙なところ。サイズもやや大きい気もする。部屋の角に置いてみると、座っている僕がヴァンガードに見下されているみたいだ。

「よろしく、ヴァンガード」

僕は、心の中でそうつぶやいて、ダイソンの空き箱をまとめると、使い古してちょっと羽根のくすんだ丸い扇風機と一緒に、押入れへ片付けた。

それから、電源をいれて、リモコンの操作方法をチェックしていたら、彼女が帰ってきた。


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僕が「ダイソンきたよー」と言うと、彼女は「どう?涼しい?」と聞いてきた。

「うん。まぁまぁかな。ただ、首を横にふれるけど、縦に動かないから、ちょっと不便かも」

「そうなの。冷たいの出してみた?」

「冷たいのは出ないよ。だってこれは扇風機だもの」

「え…。でも、妹は涼しいの出るって言ってたのよ」

「いや、違うと思うよ。これは冷房じゃなくて、ちょっとオシャレな、3万円の扇風機なんだよ。もしかして冷たいの出ると思ってた?」

詳しく話しを聞くと、やっぱり彼女は、ダイソンを冷房と勘違いしていたらしい。僕はちゃんと説明したけど、それでもまだ、彼女は納得できなくて、リモコンを手に取ると、カチカチやって、電源を入れたり、消したり、風量を、あげたり、下げたり、首を、ふったり、振らなかったりした。

僕はその様子を、悲しい気持ちで見ていたけど、そろそろだと思って「ね。冷たいのは出ないんだよ」と言った。

「クーリングオフはどうかしら」

彼女はそう言ったから、僕は落ち着いて答えた。

「電化製品は、一度でも通電したら返品できないんだよ。初期不良なら交換してくれるけど、自己都合だと難しいよ」

それから僕は、ジャパネットのホームページを見せたりして、慰めるように説明してあげた。すると彼女は、首を斜めにかしげて

「そ。じゃあいいわ!涼しいでしょ!」

と、投げやりに言った。

「買う前に相談してくれたらよかったのに。それにジャパネットじゃなくて、電気屋さんで選んでたら、買う前に気づけたんじゃないの…」

「あー!うるさい!うるさい!もう!いいの!」

それっきり、彼女は黙ってしまって、僕も話したら火に油を注ぐだけだと思って、静かにしていた。二人の間には、重苦しい沈黙が横たわっていて、その後ろで、ダイソンが低いブーンという唸りを響かせていた。

彼女は、しっかりしているように見えて、ちょくちょく、同じようなあやまちを犯してしまう。だからと言って、僕は彼女を嫌いになったりはしないのだけど。

彼女が、僕に買うのを教えなかったのは、言ったら僕が代金を支払ってしまうから。

その気持ちだけで、僕には充分で、彼女もジャパネットも、もちろんダイソンだって悪くない。今回は、そんな気遣いとか、思いやりとかが、結果的に失敗になってしまっただけなんだ。

それから、僕らは、布団のうえにならんで座って、ガリガリ君を一緒に食べた。彼女は素肌に、いつものサラサラした化繊のワンピースを着ていて、ぽっこりお腹のまえに裸足を投げだしていた。茶色に染めて、短く切った前髪が、ダイソンの風で揺れていた。