散るろぐ

ここが僕のアナザースカイ

魔法のカギ

「ほら!見てみて!」と言って、笑顔で鼻先に広げて見せられたのは、テッシュで押し潰して、体液のしたたる、巨大なゴキブリの死骸だった。

本当にもう、しょうもないというか、勘弁してほしいというか、適当な表現が見つからないけれど、そういう行動をちょくちょくするのが、僕の彼女だ。

昨日も、玄関先のサルスベリの木にとまっていた、ナゾの昆虫を捕まえて、コルクのビンに詰めていた。体長2ミリくらいで、薄いみどり色の羽虫を、彼女は嬉しそうに眺め「セミとおなじ顔をしてるんだよ!」と言った。

それがどうしたん…としか、僕には言いようがなくて、その小さな羽虫は、コルクのフタで密閉されたビンの中で、じっと動かなかった。

「そんな中いれてたら、窒息して死んじゃうよ」と、僕が言うと、彼女は「こんなに広い空間があるんだから大丈夫」と、根拠の無い自信をこめて言った。

他にも、セミの幼虫やら、バッタやら、トカゲやら、民家の庭にいるような昆虫や爬虫類を、彼女は素手で捕まえてきては、僕の鼻先にぶらさげて、驚かせようとする。

子供なら、まだ理解できるのだけど、彼女はもう70歳で、高校生の孫のいる、れっきとしたおばあちゃんなんだよ。そろそろ、落ち着いてほしいと思うけど、おそらく一生変わりそうにない。

公平を期すために、彼女の良いところも併記しておくと、そんなふうだから、彼女は、小さな子供とずーっと遊べる。親戚の子から、見知らぬ子供まで、ありとあらゆる子供と、すぐに仲良くなれるんだよ。

それも、押しつけがましい大人の可愛がりじゃなくて、はじめて合った子でも、数分後には、まるでずっと知り合いだったように、自然と子供がなついている。

ぜんぜん、喋らなそうな女の子でも、大声で走りそうな男の子でも、なにかしら話して、いつの間にか一緒に遊んでいる。子供のこころの扉をひらく、魔法のカギでも持っているんだろうか。

僕にはとても真似できない。