散るろぐ

ここが僕のアナザースカイ

ずっと使っていたガラケーが壊れた

15年前に契約したソフトバンクのホワイトプラン。僕たち昭和世代には記憶にあたらしいけれど、平成生まれの子は、まるで知らないかもしれない。

月額980円。しかも端末代金コミコミ。

そんな惹句で、docomoの牙城を崩さんと威風堂々ローンチしたホワイトプランも、今はむかし。まだ使っているのは、日本中で僕だけなのかも。

そんな、ずっと使い続けていた携帯電話が、突然、使えなくなった。いや、突然というのは優しいウソで、こんな日が来るんじゃないかと予感していた。

それと言うのも、去年の今ごろから、携帯電話を充電すると「このUSIMカードは使えません」という感じのメッセージが、ちょくちょく表示されるようになっていたから。

そのたびに気弱な僕は、なんだろうこれ、と思いつつ、いったん携帯電話のバッテリーを外して、もう一度再起動する、というような所作をおこなっていた。そしたら、なにごとも無いように直っていたから、それでいいと思った。万事解決と自分に言い聞かせていた。

だけど、ひとたび狂い出した歯車が自然ともどるワケもなくて、とうとう昨日の夜、充電から目覚めると、引き返せない道の果てに「このUSIMカードは使えません」のメッセージが無限に繰り返すようになってしまった。

僕は、それこそ、何度も何度も、ダイエー松中のトスバッティングのように、バッテリーを外しては再起動ってことを愚直に繰り返したのだけど、もうダメだった。経験上こうなるともう終わりってことも知っていた。



そのまま、3日たった。

使えないガラケーは、その間も、ずっと僕のカバンにあって、修理に出さなきゃ絶対に直らないし、使えない期間でも料金を払わなきゃいけない。

それなのに、気持ちが先に進めなくて、ただただ立ち尽くしていた。キセキなんか、誓って願ってないけれど、またバッテリーを外して電源を入れ直してみた。そして「このUSIMカードは使えません」のメッセージを最終確認して、4日後にやっとソフトバンクのショップへ向かった。

正直な話、ソフトバンクへ出向くのは気が重かった。ショップのスタッフが悪いのではないけれど、ソフトバンクのやり方を僕は知っているから。

おそらく、イヤ、ぜったいに今回もSIMカードの交換とかで、莫大な手数料を3千円くらい請求してくるに違いない。

もしかしたら、ホワイトプランも潰されるかもしれない。そして、目の前でSIMカードをバキっとへし折られて「交換ですね。あたらしいのが届くのは一ヶ月後です。どうしますか?」という煽りを覚悟していた。そんなことは無いと思うけど、ニュアンスとしてはきっとそうなんだ。

僕がなぜそんなに、ソフトバンクに不信感を抱いてしまったのかと言うと、まだ契約したばかりのころ、なぜか、延滞手数料という名目で、勝手に100円取られたからだった。

ホワイトプランを契約して、引き落としの銀行口座もちゃんとして、いつから引き落とされるんだろうと思っていたら、3ヶ月後にぜんぶの請求書が届いて、急いでショップへ払いにいった。そしたら、すぐに払えたけど、後から来た明細書に、延滞手数料を100円取られていた。

僕は、いつ払っても大丈夫だったし、支払いを遅らせる気なんて毛頭なかったから、なんで100円とられるのか意味がわからなかった。

そのむねを、ショップの人に訴えたら、丁寧にサービスセンターに問い合わせてくださいって言われて、電話して100円返してくださいって、お願いしたのに、返してもらえなかった。

けっきょく、100円くらいでガタガタ言っている僕が悪いのかも、って気になってきて、受話器を置いて泣き寝入りしてしまった。

それ以来、ソフトバンクはそういう会社なんだと、ヤクザと同類なんだと思って、月々の料金をおとなしく支払っていた。


そのせいで、今回も怯えていた。でも、僕はあの頃よりずっとオトナになったし、もう泣き寝入りなんてしない。もしもひどいこと言われたら、違約金を一万円たたきつけて、ぜんぶ解約してやるんだ。そんな決意を胸に秘めて、ソフトバンクショップへ向かった。


会社の近くにショップがひとつあって、そこへ行くと、スタッフの人が出てきて「どうされましたか?」なんて、ダイハツタントのコマーシャルに出てくる大泉洋みたいに聞いてきた。僕は、あらかじめ用意していたセリフを一言一句たがわずに暗唱して、息絶えたガラケーをその手に委ねた。

僕は、ダイハツタントの大泉洋が好きじゃない。あのコマーシャルの彼は、まるで卒業式で校長先生から卒業証書を受け取る小学生のようじゃないか。律儀にかしこまって、自分が優等生のタントになろうとしている。


そんなことを考えていたら、大泉洋が戻ってきた。ウラでなにをしていたんだろう。いつも思うけど、どこのショップでも、預かった携帯電話やスマホを、コソコソ裏に持っていくけど、なにをやっているのかな。秘密裏にデータをぶっこ抜いているんだろうか。

いや、今回は端末とSIMカードをチェックしてもらうのに渡したんだから、文句は言わないけれど。

そして診断結果は、思ったとおり、SIMカードが古くなってダメになってるってことだった。やっぱりそうだった。SIMが経年劣化で読み込めなくなってたんだよ。

僕はそこで身構えたんだけど、答えは予想外だった。

「SIMカード交換しますね。料金はかかりません」

「エッ!?つまりタダですか!?」

「Exactly」

いや、イグザクトリィなんて言わなかったけど、ホントに無料で交換してくれた。

SIMカードが、無料で、再発行。

夢かと思った。

あのソフトバンクが、壊れたSIMカードをタダで交換してくれたんだよ。水に落ちた犬を打たなかった。こんなことってあるんだ。支払いを覚悟して暗い気持ちでいたのに、スグにSIMカードを新しいのに変えてもらって、帰るときには晴れやかな気分だった。

帰りみち、僕は本当にうれしくて、うれしくて、小躍りしてるような気持ちだった。昔はワルだったけど、大人になったら優しくなったヤンキー話みたいだけど、ソフトバンクは丸くなった。少なくとも、経年劣化で壊れたSIMカードを無償で交換するくらいの常識は、身に着けたんだよ。

なんか、久しぶりに良い事があったな、嬉しいな、嬉しいな、と、本気で喜んでいたら、なんだか泣けてきた。

だって、壊れたSIMカードを無料で交換してもらったってだけだよ。それで、めちゃくちゃ嬉しいんだよ。泣くほど喜んでるんだ。

つまり、それほど僕はダメージを受けていた。ここ何年か、人間も世界も信じられなくて、ひどい世の中に絶望していたんだ。

なんか、仕事もなにもかも、僕を裏切るし、僕をとことんまで傷つけるばかりだった。でも僕は「人間なんて、社会なんて、所詮そんなモンだろう」って、あきらめることで、負の感情を麻痺させてたんだ。

それが、ソフトバンクの大泉洋によって、一挙にあふれ出てしまった。堰き止めていた感情が、怒涛のようにあふれてしまったんだよ。

ありがとうソフトバンク、なんて気分には全然ならないけど、ちゃんと仕事してくれたことには、素直に感謝してる。