散るろぐ

ここが僕のアナザースカイ

渚のガントリークレーン

夕暮れ刻であったろうか。

波止場で小石を集め、寝そべってロックバランシングをやっていたとき、チコが不意に口をひらいた。

「タバコを吸っているとコロナになったら、重症化する確率が14倍になるらしいよ」

独り言のように聞こえたが、どうやらそれは、タバコを止めない、僕へ向けられた言葉のようだった。

「デマじゃないのかい?」

「だといいけど」

チコは変わらず、対岸の工業地帯に目を向けたまま、こちらを見ずに言った。

コロナとは、コウモリを宿主とする感染型ウイルスだ。人に伝染ると大変な健康被害をもたらすらしい。不思議なのは、コロナにかかっても、ほとんど症状の出ない人と、重症化する人の二種類がいることだ。

チコの仕入れた情報によると、どうやらその境界線は、タバコに原因があるらしい。つまり、タバコで肺が弱っていると、コロナにかかったら14倍の速さで死んでしまう。

チコの心配は理解できた。僕がタバコを止めないから、彼女は僕の健康を気づかってそう言ったのだろう。

「大丈夫だよ、チコ。逆に考えるんだ。少林寺のマスターは、毎日、焼けた砂を手刀で突いているよね。僕もおなじなんだ。ケムリを吸いこんで鍛えてるんだよ。肺をさ」

「だといいけど」

「そうに決まってる。むしろタバコをやらずに、肺をあまやかしてるカタギのほうがあぶないんじゃないかな」

チコはもう応えずに、湾の向こうのガントリークレーンを眺めていた。